プロダクトエンジニアの役割とは?/Product Engineer Career Talk イベントレポート

こんにちは! ケップルで Creator Success を推進している池浦( @pr1v4t3_ )です。

2024年6月19日に株式会ケップル主催のもと、アセンド株式会社、株式会社スマートラウンド、株式会社 hacomono  (以下、ケップル、アセンド、スマートラウンド、hacomono ) の4社でオフラインイベント「Product Engineer Career Talk 〜プロダクトエンジニアの役割とは?〜 」を開催しました。

本記事では、イベントの様子やパネルディスカッションの内容についてご紹介します。

イベントの概要

プロダクト志向を持つエンジニアが「プロダクトエンジニア」と呼ばれ始めてから数年経ち、さまざまな企業でプロダクトエンジニアの職種を定義され、活躍をしています。

一方で、その歴史が浅いことからプロダクトエンジニアに向けたキャリアステップや必要とされるスキルセットの情報が多くはありません。

ユーザーに価値を届けるためにプロダクトエンジニアはどのような行動をするべきか、またどのような能力を持ち合わせるべきか。それらの疑問を解消するために、本イベントではプロダクトエンジニアのキャリアについてパネルディスカッション形式でお話ししました。

パネラーとモデレーター

パネラー①:アセンド株式会社 取締役CTO 丹羽 健 さん

TSKaigi理事/Product Engineer Night主催/2021年に物流業界向けSaaS「ロジックス」を提供するアセンド株式会社に取締役CTOとして参画。Vertical SaaSの開発経験を7年以上持ち、PdMやEM、エンジニアとしての専門知識を活かして社会課題を解決するプロダクトエンジニア組織の構築に取り組んでいます。

パネラー②:株式会社スマートラウンド 取締役CTO 小山 健太 さん

株式会社スマートラウンドの創業メンバーで現在取締役CTO。 前職ではVISONALにてエンジニアとして複数のSaaSの新規立ち上げに関わる。プロダクトチームが4名のフェーズから70名規模に成長するフェーズまで幅広く経験。 日本最大のサーバサイドKotlin勉強会「Server-Side Kotlin Meetup」のオーガナイザーであり、OSS「kotlin-csv」の作者(Github☆500超)。 東京大学工学部および同大学院卒。

パネラー③:株式会社hacomono プロダクト開発本部 Engineering Manager 稲葉 達也 さん

株式会社ワークスアプリケーションズに新卒で入社し、ERPパッケージ開発、新規プロダクト製品のコンセプトおよび開発に従事、マネージャーとしての役割も遂行。 2017年から株式会社コドモンにて、保育園・幼稚園向けのVertical 業務支援開発に従事、メンバーからマネージャー、開発責任者兼取締役の役割も遂行。新規事業開発にも携わり、社員数7名→200名以上の会社・組織成長も経験。現在は、株式会社hacomonoにてエンジニアリングマネージャーに従事しながらも、自身もプロダクトエンジニアとして機能を定期的にリリース。

パネラー④:株式会社ケップル 取締役CTO 山下 毅

大学在学中から長らくフリーランスのエンジニアとして活動。請け負う案件の規模が大きくなる中で2010年に法人化し代表へ就任。金融系を中心に幅広い案件に携わる。2019年にケップルへ合流する形で取締役CTOに就任。開発部門の組織構築、エンジニアへの技術支援、社内DX推進、情報システム・総務・採用への関与、自ら手を動かしてのプロダクト開発など、従事する業務は多岐に渡る。

モデレーター: 株式会社ケップル Creator Success 池浦 諒

2018年にケップルにジョイン、 KEPPLE CRM(旧 FUNDBOARD)のフロントエンド・バックエンドを開発したのち、プロジェクトマネジメントに従事。その後、 Creator Success Section を新設し、エンジニアやデザイナーなどすべてのクリエイターが活躍できる環境の構築に取り組んでいる。

ディスカッション前に現在の役割についてアンケートを実施

アンケートを実施したところ、広義のエンジニアが多数を占めており、次点で CTO、プロダクトエンジニア、エンジニアリングマネージャーという順位でした。

参加者の属性アンケート

プロダクトエンジニアというキャリアに興味や関心を持ちつつも、現職では一般的なエンジニアとして活躍されている方に多く参加いただけたと感じています。

ディスカッションの始まりは定義から

今回、プロダクトエンジニアのキャリアをメインテーマにディスカッションを行うため、プロダクトエンジニアの定義を確認するところから始まりました。

プロダクトエンジニアが集うイベント「Product Engineer Night」を主催しているアセンドの丹羽さんは、専門的な技術を武器に、様々な領域に関心を持ちながら社会課題・顧客課題の解決を行うエンジニアをプロダクトエンジニアと定義していました。丹羽さんが執筆した note 「プロダクトエンジニアとは何者か」でも語られている通り、アセンドではプロダクトエンジニアの 5 つの特性として、以下を挙げられています。

  1. 顧客ドメインやビジネスに対する高い好奇心
  2. 専門領域の越境とキャッチアップの素早さ
  3. 探索的かつ迅速な仮説検証サイクル
  4. アンラーンを受け入れる素直なコミュニケーション
  5. 課題解決に対する強いオーナーシップ

アセンドが定義するプロダクトエンジニアの 5 つの特性

テクノロジー・UXデザイン・ドメインの 3 領域に対する関心を強く持ち、上記 5 つの特性を備えていることが望ましいと聞くと、プロダクトエンジニアとして活躍するにはややハードルが高いと感じるかもしれませんが、各領域の知見や技術がいよいよ一般化されており、プロダクトエンジニアとしてチャレンジする環境が整い始めているとも語られています。

スマートラウンドの小山さんからはプロダクトの成功に貢献するあらゆることに取り組むエンジニアという話がありました。会社が事業を存続させるための手段としてプロダクトやエンジニアリングがあることから、技術領域に限らず、リリースされた機能や提供している価値に興味や関心を持ち、オーナーシップを持って事業貢献に取り組むことが重要です。

また、 hacomono の稲葉さんによると、 hacomono ではプロダクトの成長を軸に、オーナーシップを持って追求・越境していくエンジニアをプロダクトエンジニアと定義しているようです。具体的には 5 つのスキルを定義しており、アセンドと表現が異なるものの、プロダクトエンジニアに求めているスキル・特性は概ね同じように見えますね。

プロダクトエンジニアに求めるスキル

プロダクトエンジニアに求めるスキル

稲葉さんからは、求めているスキルに加えて、プロダクト開発フローにおけるプロダクトリードエンジニアの関わり方についてもお話しいただきました。hacomono のプロダクトリードエンジニアは経営の意思決定でもあるプロダクトロードマップの策定から仕様のレビュー、そして自身で機能の開発も行うという役割の広さをお聞きし、プロダクトリードエンジニアという名前の通り、エンジニアリングを武器にプロダクトをリードすることが求められていると感じました

ケップルの山下さんはプロダクトエンジニアの定義について、カスタマーサクセスやセールスなどビジネスメンバーのプロダクトに対する目線を理解し、エンジニアリングを軸にビジネスにコミットするエンジニアと語っていました。エンジニアとして技術選定、テストの網羅性やコードの保守性を大切にしつつも、ビジネスの観点で必要となるエンジニアリングに取り組むことが求められるようです。

エンジニアリングに強みを持つこと、そしてビジネスやドメインに対して高い関心を持つことが共通して求められているようですね。その中で、デザイン・コミュニケーション・課題解決のスキルを持ち合わせていると更に幅広い領域で活躍できるようです。

プロダクトエンジニアへの適性とは

続いて、プロダクトエンジニアへの適性というテーマでディスカッションしました。

ケップルの山下さんは技術に執着しないことが重要と話してくれました。ビジネスの観点を理解した上で技術的な観点に立ち戻ると、解決策が変わることもあります。一方で、技術を中心に解決策を見出すことが間違えているという話ではないため、自身がどのような役割でエンジニアリングと向き合いたいか理解することが重要と語っていました。

hacomono の稲葉さんは、好奇心・Why思考・熱量の高さ・期待値を超える・素直さの 5 つのマインドが重要だとお話ししていました。プロダクトエンジニアの定義からも、越境することが大切なので、越境するために必要なマインドセットを定義しているようですね。「熱量の高さ」の詳細についてお聞きすると、プロダクトエンジニアが「ええい、待ってられない〜」と誰も拾っていないボールを拾いに行くシーンを話されており、筆者である私自身も同じような思いで取り組んでいたことがあったことを思い出し、強く納得いたしました。

プロダクトエンジニアを構成するマインドと生態

プロダクトエンジニアを構成するマインドと生態

スマートラウンドの小山さんからは、スタートアップにおける初期フェーズのリアルな話と絡めてお話しいただきました。小山さんがスマートラウンドに入社された時点ではバックエンド開発の経験しかなかったところ、事業を押し進める上ではフロントエンド開発にもチャレンジしていかなければならないと考え、それまで業務委託のメンバーに依頼していたフロントエンド開発を自身が担うようになったそうです。事業の成長を軸に考え、得意分野を活かしつつも必要なことがあれば臆せずチャレンジしていくことがプロダクトエンジニアとして求められるようです。

アセンドの丹羽さんは、特に課題解決に対してオーナーシップを持てるかが重要だと考えていました。オーナーシップが強ければ自ずと越境し、自ずとアンラーンするというように、プロダクトエンジニアに求められるスキルの根源はオーナーシップにあると語られていました。筆者もこの考えには強く共感し、越境やアンラーンできる人で同時にオーナーシップを持ち合わせていない人に出会ったことがありません。初期フェーズのスタートアップにチャレンジするエンジニアはオーナーシップを持っている方が特に多いと感じます。

プロダクト開発現場の実例とカルチャー醸成

最後のディスカッションテーマとして、プロダクト開発現場の実例とカルチャーの醸成を取り上げ、定義や適性ベースにプロダクト開発現場でプロダクトエンジニアがどのように活躍されているかお話しいただきました。

物流業界向けに SaaS を開発しているアセンドでは、ビジネスメンバーとエンジニアの距離が近く、ビジネスメンバーとの対話を通してドメインの解像度を高められているそうです。ビジネスメンバーとの対話のみならず、ユーザーヒアリングへ同行するといったエンジニア自身が現場を見に行く機会があるそうで、現場で得られた情報とプロダクト開発の試行錯誤を通してオーナーシップが培われています。

スマートラウンドでもビジネスメンバーとの対話を重視しており、バーチャル空間オフィスのサービス「Gather」を活用し、フルリモート下でもビジネスメンバーとエンジニアの双方が話しかけやすい環境を整えているそうです。また、スマートラウンドのエンジニア行動規範・価値観「Engineering Value」で「失敗して学び続ける」が定義されているように、ビジネスメンバーとの対話を通してビジネスやドメインの解像度を高めた上でチャレンジを促すカルチャーが醸成されています。

スマートラウンドの Engineering Value(エンジニアの行動規範)

スマートラウンドの Engineering Value(エンジニアの行動規範)

hacomono では施設利用料の80%まで支援する制度「With Wellness」を活用してエンジニアがドッグフーディングしやすい環境を整えるだけでなく、直近ではセールスメンバーの商談にエンジニアが同席を依頼するワークフローの整備にも取り組んでいると話されていました。加えて、プロダクトづくり勉強会や成果発表会(自慢大会)といったプロダクトエンジニアを育むための取り組みが実施されています。特に成果発表会(自慢大会)は筆者もぜひ参加したいと感じました。

hacomono のプロダクトエンジニアを育む社内の仕組み

hacomono のプロダクトエンジニアを育む社内の仕組み

また、ケップルでもカスタマーサクセスのオンボーディングやセールスの商談にエンジニアやエンジニアリングマネージャーが同席しています。エンジニアとビジネスの垣根を無くすために、プロダクトグループという組織を作り、プロダクト開発に対してエンジニアとビジネスメンバーがフラットな関係性で取り組める環境作りを行っています。

プロダクトのグロースと技術的負債のバランス

質疑応答の時間では、プロダクトや事業の成長を軸に物事を判断していると技術的な負債の解消の優先度が落ちるのでは?という質問が参加者から多く寄せられました。

ことスタートアップのファーストプロダクトにおいては特にそのような状況に陥りやすく、技術負債を適切に管理し、なぜ解消が必要なのかを経営レイヤーに説明しロードマップに組み込むことが重要であるとケップルの山下さんは話していました。また、ケップルではカイゼン活動日という不具合やちょっとしたカイゼンを行う日を週に 1 日設けており、可能な限り技術的な負債が膨れ上がることを抑えています。

スマートラウンドでは 20% ボーイスカウトルールを導入しており、各エンジニアの裁量でリファクタリングやドキュメント整備を行える環境を整えていると小山さんは語られていました。コードの複雑化に限らず、技術的な負債が発生するのは必然と考え、それらをどのように対処していくかを重視しています。

丹羽さんと小山さんのトーク

丹羽さんと小山さんのトーク

また、アセンドの丹羽さんからは、ビジネスサイドとエンジニアサイドの KPI はタイムラインが異なることを互いに理解し、対話を通して技術的な負債の解消の必要性を伝えるという話がありました。どちらかの KPI の方が重要という話ではなく、飽くまでもそれぞれの KPI はプロダクトや事業の成長に紐づくものであるため、プロダクトの成長に向けて目線を揃えて総合的に判断しよう、ということですね。

稲葉さんと山下のトーク

稲葉さんと山下さんのトーク

今回ご登壇いただいた 4 社の中で最も組織規模が大きい hacomono では、リアーキテクトやミドルウェアのバージョンアップを実施するリアーキテクト部・イネーブリング部が設置されており、組織体制を整えることによって解決しているそうです。また、hacomono のエンジニア組織の文化としてグロースに対するリスペクトを持っているメンバーが多く「技術負債」という言葉があまりでてこない、という話もされていました。

ディスカッション・質疑応答を終えて交流会!

参加者の属性としてマネジメントレイヤーが多く、いつも以上に交流会が盛り上がっていたように感じます。筆者も交流会で参加者の方々とお話しさせていただきましたが、どの方もプロダクトに対して情熱を持って向き合っており、話しているだけでプロダクト開発のモチベーションが上がりました。

さいごに

今回のディスカッションを聞いて、特に環境の整備やカルチャーの醸成は組織全体で取り組む必要があると感じました。

実際のところ、越境したいと考える・自然に越境するエンジニアは社会にたくさん存在すると思いますが、そのようなエンジニアが活躍できる環境づくりが社会的に間に合っていないように感じます。プロダクトエンジニアのコミュニティが活性化することや、プロダクトエンジニアのポジションを定義する企業が増えることによって、プロダクトエンジニアというキャリアが一般化し、エンジニアがより幅広い領域で活躍できる未来が待ち遠しいですね。

懇親会後の集合写真

懇親会後の集合写真!盛り上がっていました。

各社の採用ページ

アセンド株式会社:https://product.career.ascendlogi.co.jp/

product.career.ascendlogi.co.jp

株式会社スマートラウンド:https://jobs.smartround.com/

jobs.smartround.com

株式会社 hacomono:https://www.hacomono.co.jp/recruit/engineer/

www.hacomono.co.jp